沖幸子イメージ
仕事人秘録
日経産業新聞連載

 新たな家事の形探るD

   窓磨き業者、起業のヒント
   
   1982年12月、沖氏はロンドンに移った。
   

   渡英して早々、想定外の事態が私を待っていました。なんと、年明けには夫がドイツの
  ハンブルクに転勤することになり、私も、ハンブルクに移住しなければならなくなりました。
  おかげでロンドンでの留学を断念。移住手続きなどがあり、ハンブルクに居を移したのは
  83年3月。入居した部屋は3階建てアパートの1階で、広さは120平方bの3LDKでした。
   ドイツ語が話せないので、早速、語学学校に入学しました。まさに人種のるつぼで、様々
  な国籍の人たちとのコミュニケーションが刺激的だったことを昨日のことのように思い出し
  ます。3ヶ月程度で日常会話は無難にこなせるようになり、隣近所の方々とも仲良くなりま
  した。自己主張を明快にすることが求められるドイツは私の性格に合っており、とても快適
  でした。
   ドイツ暮らしに慣れ始めた夏のある日。アパートの大家であるグルッペ夫人がしびれを切
  らした表情で私の部屋に来て「窓が汚いですよ。すぐにきれいにして下さい」と言います。
  掃除があまり好きではない私が気乗りしないのを見抜いたのか、窓ガラスの磨き専門の業
  者を紹介してくれました。
   数日後にやってきた窓ガラス磨き業者は40歳代の男性。弟子を1人携え、ベンツのバン
  に乗っています。驚いたことにこの仕事だけの収入で家族を養っているほか、別荘も持ち、
  1カ月近い休暇も毎年取っていると言います。なにより楽しそうに仕事をしているのが大変
  印象に残りました。

   定期的にやってくる窓ガラス磨きの男性を観察するうちに、沖氏はあることに気づく。

   窓ガラス磨きの頻度は業者の男性が決めました。最初は汚れている窓ガラスに手こずっ
  ても、次回からはそんなに汚れていないうちに磨きにくれば短時間の作業で済むからです。
   作業スタイルも完全にマニュアル化されています。 「冷たい水よりもぬるい湯が効果的」
  「中性洗剤は薄めて使う」といった具合です。機械的に作業をこなし、その日のうちに料金は
  現金で受け取る。聞けば顧客を200件近くも持っているとのこと。この仕事で何不自由ない
  生活が送れるはずです。
   「このビジネスモデルを日本で展開しない手はない」。ひらめいた瞬間から、私の頭の中は
  どうやって日本で起業するかでいっぱいになりました。自宅近くの森を散歩しながら、浮かん
  だのが現在の社名。業者を紹介してくれたグルッペ夫人(ドイツ語でフラオ グルッぺ)にちな
  みました。ただ、当時の私は休職中の身。すぐに帰国することはできませんでした。
                                        (2010.12.20 日経産業新聞)

 


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