沖幸子イメージ
仕事人秘録
日経産業新聞連載

 新たな家事の形探るF

   最初に受注した掃除の仕事で、沖氏はきゅうを据えられることになる。
   
   
換気扇だけの掃除に朝から取り組んでいても終わらないので、心配になったのでしょう。
  発注者の男性が見に来ました。
   換気扇を必死にふいていたと説明すると、「この仕事にむいてない。辞めた方がいいな」
  と一言。分解した換気扇を洗浄液に漬け、きれいにするのがプロの方法だと初めて知りま
  した。自らの勉強不足を痛感しましたが、その後も仕事のたびに学習し、マニュアルを増や
  していきました。
   1990年代に入り、ようやく仕事が安定的に舞い込むようになりました。何とか自分自身に
  も給料を出せるようになったのはうれしかった。個人向けセミナーを開催し始めたのもこの
  頃です。認知度が向上したことで市場規模の拡大を確認したのか、以前に掃除代行ビジ
  ネスから撤退した大手企業などが再参入してきました。
   会社が軌道に乗ったからといって、いいことばかりではありません。いたずら電話は珍しく
  ありませんし、料金を踏み倒された経験は何度もあります。でも、前金制を導入したり、仕事
  完了後に出来栄えをお客様にご確認いただくなど、リスクマネージメントを磨く良い機会に
  なったと考えています。
  

  
 掃除の奥深さ本で伝える
 
   
92年ごろ、知り合いの大学教授から沖氏に1本の電話がかかってきた。。
  
 政府の審議会の研究会に参加しないかとの打診でした。なぜ私に白羽の矢を立てたのか
  皆目分かりませんでしたが、事業拡大のため理論武装するチャンスだと考えて引き受けるこ
  とにしました。
   国会議員の先生方をはじめ幅広い人脈を構築できるだけでなく、様々な知的な刺激に触れ
  られたのは本当に有意義だったと思います。95年には初めて審議会の委員に任命され、中
  小企業近代化促進法の改正(97年)に携わりました。
   この頃になると、掃除マニュアルもかなり厚くなってきました。我々が失敗しながら蓄積して
  きたマニュアルをスタッフに誇りに感じてもらうにはどうすればよいか。「本にして世に問うて
  みよう」。私が出した1つの答えでした。いろんな出版社に売り込みましたが、なかなか出版
  を承諾してもらえませんでした。
   99年12月にPHP研究所から出されたときは飛び上がって喜びました。松下電器産業(現パ
  ナソニック)の掃除機事業部の課長の方の紹介で、宣伝ツールとして松下が100冊以上の購
  入を確約してくれたことが決め手でした。
   本のタイトルは「『そうじ』のヒント」。売れないという下馬評を覆して、10万部近く売れたとの
  こと。掃除の奥深さを少しでもお伝えできたのではないかと自負しています。
                                         (2010.12.22 日経産業新聞)

 


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